ジル・サンダー JIL SANDER:1968- (GERMANY)

ジル・サンダー JIL SANDER:1968- (GERMANY)

ジル・サンダーについて語る試みは、現在あるズレを抱えることとならざるをえない。なぜならば、デザイナーとしてのジル・サンダーは、2000-01年秋冬コレクションを最後にブランドであるジル・サンダー社の社長職とデザイナー職を辞任してしまったからである。(2017年08月19日 最終更新)

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多くの老舗メゾンが、デザイナー本人が死去した後にもブランドとして存在し続け、ブランド・イメージを継承-更新している。その
意味で、ブランドは、デザイナー本人の手を離れでも生き続ける場合が多い。しかし、突然の引退発表の衝撃もまだ冷めやらぬジル・サンダーにあっては、ブランドとしてのジル・サンダーを語ることは、畢竟、デザイナーとしてのジル・サンダーについて語ることとなる。それは、現在のそして未来
に作られるブランドとしてのジル・サンダーの在り方とは、同じであるとは断一言できない。特にジル・サンダーのデザインやブランド・イメージが、ジル本人の生き方と共振しているため、なおさらジル本人を抜きにしては語れないのである。
ジル・サンダーは1943年、ドイツのハンブルクで生まれた。本名は、ハイデマリー・イリーネ・ザンダー。最初、クレフェルド・スクール・オブ・テキスタイルで学び、63年から2年間、交換留学生としてアメリカのロサンゼルス大学に在籍する。その後、「マッコールズ」や「コンスタンツ」などの女性誌のファッション・ジャーナリストとして活躍する。68年にハンブルクにブティックを聞き、フリーランスのファッション・デザイナーとしての活動を開始する。ファッションを語る立場から創造する立場への移行を、ジル自身は「イノベーター、革新者となることへの欲求」によるものであると語っている。73年にパリ・コレクション初参加。78年に会社組織を改革し、その時より本名のミドル・ネームを使って英語風にジル・サンダーと名乗るようになる。80年にパリから撤退。85年より活動の場をミラノへと移し、87年にミラノ・コレクションに初参加する。その直後から人気が急上昇し、89年には株式会社としてのジル・サンダー社はフランクフルトの株式市場に上場、93年にはパリにブティックの第1号店を開くこととなる。同年、初のメンズ・コレクションを発表。98年にはジル・サンダー社の年商は2億マルク(約138億円)を超えた。翌年の99年にプラダ・グループがジル・サンダー社を買収。前述したようにジルは、2001年秋冬のコレクションを最後にデザイナーを辞任することとなった。投資家たちの利益優先で進むファッション業界の統合再編の中で、この引退発表は、「鉄の女」の異名を持つジルらしい抵抗であるとも言われた。
国際的に活躍するファッション・ブランドが少ないドイツから出発したジル・サンダーは「ドイツ・ファッションの女王」と呼ばれる。彼女自身が一貫して標榜してきたデザイン・ポリシーは「装飾なきデザイン」であり、その特徴はしばしば「ミニマリズムの典型」とも言われる。
美術においても同様であるが、ミニマリズムとはモダニズムの極点である。つまり、造形物を構成している基本要素への強い関心とその強調、そのことに起因する装飾の排除と単純な(純粋な)フォルムの追求が、発想の根底にあるのである。それらは、ジル・サンダーのデザインにあっては、高価だが極めて上質な素材の使用、高い縫製技術、シャープなカッティング、黒や白あるいはアース・カラーといった抑制された色の選択、シンプルだが洗練された美しい造形などといった特徴として現れている。というよりは、ジル・サンダーのデザインにとっては、それが全てなのである。そしてさらに言うならば、ミニマリストの最大の特徴は、シンプルな造形が着る人の個性によって多機に変化することを前提としている点である。「着る人の内面の美しさを表現する服」とは、多くのデザイナーが語る言葉であるが、それはミニマリストの服に最もよく当てはまる。そこには表聞を飾る装飾が一切ないのだから。
ジル・サンダーが創造する服は、社会的に成功した女性たちに特に好まれる傾向にある。それは、表面を飾ることを必要とせず、内面の強さで勝利した女性たちの精神に共鳴する洗練されたデザインであるからであり、またジル自身がそういった現代社会で強く生きる女性のモデルとして機能しているからでもある。それゆえにジル・サンダー社が、デザイナーとしてのジルを失ったことは大きいと言わざるをえない。
ジルの引退後、プラダ・グループは後継デザイナーをすぐに見つけることができず、2001年の春夏シーズンは、ジル・サンダーのデザインチームのみでコレクションを行ったが、2000年の12月にミラン・ヴクミローヴィッチがクリエイティヴ・ディレクターに就任。新生ジル・サンダーとしてのスタートを切った。
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